アレルギー性鼻炎の診断と治療
診断について
アレルギー性鼻炎は、鼻粘膜局所におけるI型アレルギー(いちがたアレルギー)に分類される疾患の一つで、植物の花粉やダニなどの抗原(アレルギーを引き起こす物質)が鼻粘膜に接触することによって引き起こされます。植物の花粉などの抗原によるアレルギー性鼻炎を季節性アレルギー性鼻炎(花粉症)。ダニなどの抗原によるアレルギー性鼻炎を通年性アレルギー性鼻炎と呼びます。
沖縄県は私が所属していた琉球大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科で調査した結果、市街地で花粉の大量飛散はみとめなかったことから花粉症はほぼないと考えてよいとおもいますが、一方でダニ、ハウスダストなどによる通年性アレルギー性鼻炎が全国平均に比較して多く(高温、多湿な気候などが原因の一つと考えられます)、アレルギー性鼻炎が少ない地域とは言えません。また、アレルギー性鼻炎は近年増加傾向にあり、有病率は49.2%と報告され実に日本人の半数近くが罹患しているとされます。
アレルギー性鼻炎はくしゃみ、水様性鼻漏(水のような鼻水)、鼻づまりの症状が特徴です。
診断は日常臨床では下記に示す①、②で診断し治療開始することが多いですが、③を行うことでより確実に診断します(当院は負担のすくない検査機器を導入しています。お問い合わせください)。
①くしゃみ、水様性鼻漏、鼻づまり症状(問診)。
②鼻腔内所見(所見は様々ですが鼻粘膜が蒼白で腫脹していることが多いです)。
③アレルギー性の検査(鼻粘膜局所でアレルギー反応が起こっているかを調べる:鼻汁好酸球検査など)、抗原同定検査(アレルギーを引き起こす物質を調べる:血清特異的IgE、皮膚テスト、鼻誘発試験など)。
治療について
治療は保存的治療と手術治療があります。
保存的治療
保存的治療には症状を抑えることが目的の対症療法と、アレルギー性鼻炎そのものの治癒を目指す根治治療があり、
対症療法としては抗原回避、薬物治療があげられ、根治治療としてはアレルゲン免疫療法があげられます。
対症療法
抗原回避(アレルギーの原因となる抗原の接触を避ける)
・ダニ、ハウスダストなど:清掃、除湿、防ダニ布団、空気清浄機などの使用があげられます。埃の立ちやすい場所は拭き掃除をして掃除機をかけるなどがよいです。イヌやネコにアレルギーがある方は室内で飼わないなども検討が必要です。
・花粉:メガネ、マスク着用や衣服を玄関前ではらって花粉を室内に持ち込まないなども大事です。
薬物治療
抗ヒスタミン薬、ロイコトリエン受容体拮抗薬、鼻噴霧ステロイド薬などが代表ですが漢方薬などもあり、種類も多いです。これらを併用をすることもあります。薬物の効果は個人差があるため、効果の高い自分にあった薬物があれば覚えておくとよいとおもいます。最近では生物学的製剤が花粉症の適応になりました。
根治治療
アレルゲン免疫療法
アレルゲン(アレルギーを引き起こす物質)を強いアレルギー症状が起きないくらいの少量から摂取していき、徐々に増量していくことによりアレルゲンに対してアレルギー症状が起きないように体を慣らしていく治療です。アレルギー性鼻炎の根治が期待できる治療とされます。
アレルゲン免疫療法はアレルゲンの摂取方法として皮下からの摂取と舌下からの摂取があります。従来、皮下免疫療法がおこなわれてきましたが、最近になり舌下免疫療法が開始され、アレルギー性鼻炎についての効果は同等とされ、副作用として重要なアナフィラキシー(全身の強いアレルギー反応)の危険性は舌下免疫療法が低いとされ舌下免疫療法が主流となりつつあります。薬物療法より効果が高い報告もあります。
効果を維持させるためには3年から5年程度治療を継続することが推奨されていることから比較的長期の治療となり、舌下免疫療法はスギ、ダニの限られたアレルゲンしか現在適応がありません。有効率は7割程度とされますが、残念ながら効果が見られない方もいます。治療は5歳以上からとなります。また、重症喘息や悪性腫瘍の治療中の方などできないこともあります。
手術治療
アレルギー性鼻炎は体質と関連した疾患であり手術治療で体質を変えることはできないため手術でアレルギー性鼻炎を治すという表現は厳密にいうとただしくありませんが、手術により鼻の中の形態を整えることによりアレルギー性鼻炎の症状を大きく改善することが可能です。
手術は①鼻の通りをよくする。②くしゃみ、鼻漏の改善。を目的とするものに大きくわかれます。
鼻の通りをよくする
コブレーション手術、レーザー手術など
下鼻甲介(鼻の大きな粘膜の出っ張り)の粘膜または粘膜下を焼灼することで鼻の粘膜を縮小させ、また、アレルギーが起こりにくい粘膜に変化させる方法です。コブレーション(電気凝固)、炭酸ガスレーザーやアルゴンプラズマレーザーなどで行います。主に鼻の通りをよくすることを目的としますが、くしゃみ、鼻漏にも効果があり、外来で短時間で行える手術ですので、内服などの保存的治療では症状改善に乏しいが他の手術治療までは希望されない方などによい治療とおもいます。当院ではコブレーションをおこないます。レーザーは数回施行することが一般的ですが、コブレーションは1回でレーザーとほぼ同等の効果があるとされ、手術を受けた7割程度の方は鼻づまりをはじめ、くしゃみ、鼻漏に効果があると報告されています。しかし変化した粘膜は徐々にもとに戻るとされ、効果は永続的ではありません。
鼻中隔矯正術
鼻中隔という鼻の真ん中の仕切りの骨が高度に湾曲していると鼻の通りが悪くなります。さらにアレルギー性鼻炎の方は湾曲に加え鼻粘膜が腫脹するため完全閉塞に近くなる方もいます。手術により湾曲している鼻中隔を矯正し、鼻腔の形態を整えることにより鼻の通りを改善させます。局所麻酔でも全身麻酔でも可能な手術ですが、当院は連携病院で全身麻酔下の内視鏡手術で行っており、入院は2泊3日程度です。
粘膜下下鼻甲介骨切除術
下鼻甲介という鼻の大きな粘膜の出っ張りがあります。この粘膜の中にある骨を摘出することにより下鼻甲介の容積を減らし、鼻の通りをよくする手術です。局所麻酔でも全身麻酔でも可能な手術ですが、当院は連携病院で全身麻酔下の内視鏡手術で行っており、入院は2泊3日程度です。
くしゃみ、鼻漏の改善
後鼻神経切断術
下鼻甲介という鼻の大きな粘膜の出っ張りに分布するくしゃみや鼻水に関係する神経(後鼻神経)を切断することによりくしゃみ、鼻漏の改善させます。局所麻酔でも全身麻酔でも可能な手術ですが、当院は連携病院で全身麻酔下の内視鏡手術で行っており、入院は2泊3日程度です。
実際は鼻中隔矯正術、粘膜下下鼻甲介骨切除術、後鼻神経切断術は同時に施行することが多く、私が所属していた琉球大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科でこの3つの手術をおこなった68例の治療効果判定を検討したところ、術後平均42.5か月の時点でくしゃみ、鼻漏、鼻閉、生活支障度いずれにおいても7割以上の方が改善を維持していました。
アレルギー性鼻炎は体質と関連した疾患であり、アレルゲン免疫療法のように体質改善と根治を目指す治療はありますがまだ難しいことも多く、治療は長期におよびます。患者様のライフスタイルや希望に添えるよう相談しながら手術を含めた治療方法を選択していければとおもいます。